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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル62

【太ることと大腸癌】

 

大腸癌の手術をしていると、何故か、大腸の手術をした後に太る人が多いのに気がつきます。また、肝臓に脂肪が沈着する人が増えるのにも気がつきます。それは、大腸癌を多く手術している外科医なら、なんとなく、気がついていたことです。

だから、大腸癌をした後は、太りすぎや食べすぎにならないように、外来で指導しています。

しかし、うかつにも、わたしは気がつかなかったのですが、そもそも、太った人に大腸癌の方が多いのだそうです。

これは、トピックスとして、書いておきましょう。

200599日の共同通信の報道によれば、国立がんセンターによる大規模な疫学調査によって、体格指数(BMI)が27以上の男性は、25未満の男性に比べて、大腸癌の発生率が1.4倍なのだそうです。10万人の日本人を対象にして、9年間追跡調査した結果、その期間中に約1000人の方が大腸癌になり、その結果を解析して、わかったそうです。一方、女性では、肥満と大腸癌のリスクは関係がなかったそうです。

 

さあ、学生の皆さん、あなた方は、医学生なのですから、この事実から、何を導き出すか、考えることが大切です。

まず、男性に対して、太らないように指導することが大切だ、ということを導き出す人もいるでしょう。

『太ると、大腸癌になるよ、怖いかったら太らないで。』という具合にですか。診察室でこんなことを言うのですか。趣味のいい医者とはいえませんね。おそらく、こんなことでやせようと思い患者さんは、いないのではないでしょうか。ただ単に夢見を悪くしているだけですね。

では、次に。

女性は、肥満と、大腸癌の発生には関係がないから、ふとってもいいよといいますか。これもほとんど、意味のないことですね。肥満は、大腸癌以外の生活習慣病といわれる病気のリスクファクターなのですから、太っても安心などという指導は、ありえませんよね。太った女性への慰めですか。やはり、趣味のいい医者とはいえませんね。

では、次。

太っていることと、大腸癌のリスクの上昇とが、なぜ、関連があるのか、理由がわからないから、信じられない人もいますね。疑ってかかるのは、大切なことです。たかが、10万人の調査の結果です。日本人は、それ以外に1億人以上もいるわけですから、その人たちも調べれば、結果は変わってくるかもしれませんね。しかし、統計学的に意味のある違いとされてことですから、この場では、これは、事実であると考えて、話を進めましょう。それが、科学というものです。(つまり、間違っているかもしれないけれども、手続きを踏んだ間違いであれば、あるところまでは、それは正しいとして、話を進めなければならないという、ルールです。)

次は。

BMI27以上の方は、大腸癌の検診をさらに、精密にする必要がある。という、結論を導き出す人もあるでしょう。あるいは、同じことのひっくり返しに過ぎませんが、BMI25未満の方は、大腸癌の検診を軽くする、ということです。

リスクが、1.4倍も異なるのですから、1.4倍高い人々に、よりお金を費やして、リスクの低い人にかけるお金を回す、というのが、確かに、社会経済学的な考え方ですね。

この調査結果を社会経済学的に利用するというのは、重要なことでしょう。もし、経済的に利用しないなら、国立の施設で調査したお金は、無駄ということになってしまいますから。遊びやご研究のための研究ではないはずですから。

 

このように、ひとつの調査結果をどのように利用するかということは、臨床医としての感性の問題かもしれません。意味のある臨床をしなければいけないということですね。

今日は、ここまでの話になります。

明日は、大腸内視鏡検査の実習です。

さあ、太っている学生は、大腸内視鏡検査の被験者となりますので、次の時間までに、お尻を洗ってくるように。()

メモ

BMIは、体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った値です。標準は、22で、25以上が肥満とされます。BMI 27は、身長165センチの場合、体重が、74キロとなります。


【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】


  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える