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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル66

 

【盲腸ポート】

「盲腸ポート」という治療方法についてお話します。
これからお話しする、「盲腸ポート」は、比較的新しいテクニックです。
そして、「盲腸ポート」の経験のある医師や施設は限られているのが現状です。
ですから、今までこの盲腸ポートの話を聞いたことがなかったかもしれませんね。
その理由のひとつには、盲腸ポートが必要な状態の患者さんを(変なことではありますが、)まじめに診ている医師が少ないということがあげられます。排便機能の専門家が非常に少ないということです。
そして、排便機能の専門家が、盲腸ポートを内視鏡的に入れるテクニックを持っていないことも多いという、皮肉なことも一因だと考えられます。

では、前置きはほどほどにして、盲腸ポートの本題に移ります。

肛門機能が廃絶し、もうどのような肛門手術でも肛門機能を改善させられない場合、最終的な方法として、「盲腸ポート」という選択肢があります。
これは、盲腸に胃ろうキットであるシリコンの管を設置して、その設置された管(盲腸ポート)を通じて、盲腸から大腸全体を浣腸するというものです。

そもそも浣腸は、普通、肛門から
グリセリン液を注入して、大腸の蠕動運動を誘発し、排便を促すというものです。しかし、これには、2つの問題点がありました。
ひとつは、肛門からグリセリン浣腸液を注入しなければならないため、注入そのものが難しいということです。お尻は自分では見えませんからね。また、浣腸を他人にしてもらうことには、羞恥という壁がありますね。
もうひとつは、肛門から注入した浣腸液は、直腸にとどまることが多く、大腸全体に広がるのは、なかなかに難しいということです。

その2つの問題をクリアーするために、盲腸からの順行性の浣腸が考えられました。順行とは便の流れてお同じ方向に浣腸するということです。

まず、開発されたのは、Malone手術といわれるものです。
この手術は、盲腸に付属した虫垂を皮膚まで持ち上げて、皮膚に開口させ、そこから、ストローのような管を挿入して、浣腸液を注入するものです。いくつかの論文によれば、この方法はすぐれた方法であるということでした。
実は、過去に、私は2例だけMaloneの手術の経験があります。
おそらく、私が所属していた施設および関連施設をあわせてもその2例だけだったと思いますが、不幸にも、あまり、いい結果を出すことは出来ませんでした。論文では触れられなかった不都合があったからです。
もともと排便機能に問題のある人に手術を行うので、この手術後に消化管の動きの不調がでることは、当然予想されます。私の手術した二人の方もそうでした。そのため、患者さんの満足が十分に得られなかったことと、その2人はともに高齢の方でしたが、虫垂の開口部にうまくストローのような管を差し込むことが出来なかったことによりました。また、その管を入れるとき痛みもありました。(確かに、トイレは十分に明るいとはいえず、高齢者の視力では難しいことだったかもしれません。さらに、一人の肩は、神経病も患っていました。)そして、最大の欠点は、虫垂の開口部から、便中が逆流して、おふたりともそれに耐えられないことでした。便秘症も合併していた方でしたので、腸内圧が高かったのかもしれません。

以上の理由で、Malone手術は、私の中では捨てられた手術でした。

それが、もう1度復活したのは、盲腸ポートが必要な患者さんが私の前に現れたこともありましたし、また、盲腸ポートは、大腸内視鏡の得意なものとしては、無麻酔で、簡単に施行することが出来、十分な満足度が得られない場合は、その盲腸ポートを抜いてしまえばさ、からだに、1cmほどの創跡が残るには残りますが、それ以外の欠点はないように思えたからです。

そこで、グリセリン浣腸を頻回に行う必要がある方や下剤を大量に飲んでいて、さらに、肛門機能が廃絶している方を対象に、盲腸ポートを、試みました。

結果は、今までのところ、盲腸ポート挿入に際し、大きな合併症なく、さらに、患者さんの満足は得られました。特に、驚いたのは、盲腸ポート周囲から、便汁の逆流がまったくといっていいほど、見られなかったことです。

順行性の浣腸というアイデアではまったく同じ、Malone手術と盲腸ポートですが、結果が、明らかに異なりました。

肛門機能が廃絶し、下剤や浣腸を大量、多数行わなければならないような方には盲腸ポートは、選択してよい、治療法といえます。

盲腸ポートは現在、保険適応になっていないし、大腸内視鏡的に行うには、いくつかの細かなノウハウがあるにはあるのですが。



【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】


  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える