【肛門の“8の字ダンス”】
みなさん、ミツバチの8の字ダンスを知っていますか。
ミツバチがお花畑の場所を仲間に知らせるときに踊るダンスのことです。
巣箱の板の上でお尻をフリフリしながら8の字にダンスを踊り、場所や距離を教えるダンスのことです。このダンスの秘密を解読した科学者は、ノーベル賞を受賞しました。
そのダンスのように、でも、正確な意味ではそのダンスとは違うように、肛門の周囲を8の字に囲む括約筋を、8の字を描くように収縮させたり、弛緩させたりしながら、括約筋を鍛えて、便の失禁を治療したり予防したりする、ダンスのことです。
まず、グローバルスタンダードのフィードバック療法の話
肛門括約筋を鍛える方法には、フィードバック療法という治療法が有名です。フィードバックとは、「何かの行為をしたときに、それによる効果によって、さらにその行為が増強されたりあるいは抑制されたりする制御システム」を表わす言葉です。つまり、肛門括約筋の訓練で言えば、お尻の穴を収縮させたとき、その収縮度合いが、数字でわかったり、画像でわかったりすることによって、さらに、有効にお尻の穴をしめることができるようになる、というものです。平たく言えば、お尻を閉めるコツをつかむということですね。
たしかに、有効な治療のように感じられますね。お尻を閉めてくださいといっても、自分では、上手く閉められているのか、閉められていないのか、よくわかりません。それでは、訓練をしようにも、出来ませんね。それが、肛門の内圧を測定していれば、数字が上昇しますから、その数字を見ながら、確かに、上手に閉めることが出来るようになる、ということなのです。このための器具が売られていますし、子供用には、見ていて楽しくなるような動画つきのソフトもあります。いくつもの論文で、この治療の有効性が証明されているといいます。
しかし、ですよ。常識で考えてください。
モニターを見なければお尻を閉めているのかどうか、わからない、という方は、現実には少ないのです。それから、高価な機械やソフトを使わなくても、自分でその動きを一度、感知できれば、その後は、機械は必要なくなるのですね。
実は、フィードバック療法が有効だとする論文が多数出版された後で、フィードバックの機械を使って肛門の括約筋を訓練させた患者さんの群と、機械など何も使わないで訓練させた患者さんの群を比較して、効果に差が無かったという論文が、あるのですね。これは、わたしの常識に合致する結論でした。
だいたい、フィードバック療法のメッカとされる、英国のある病院のフィードバック治療の責任者が、このフィードバック治療の効果は、治療を担当したナースの熱意によって、治療効果が左右されるといっているくらいなのです。
つまり、どういうことなのかというと、フィードバックという治療そのものがすぐれているのではなく、患者と一体になって熱意を持って、肛門の収縮訓練をし続けることに意味があるということなのです。
これも、わたしの常識に合致します。
フィードバック療法などという行動心理学上流行の用語を使った名前をつけて論文用に仕上げてはいますが、これは、わたしに言わせれば、単に受け狙いの命名であって、治療の本質はそんなところにあるわけでは無いということです。
そして、この治療の開発者兼推進者は、実はそんなことは100も承知だということなのです。では、なぜ、100も承知でも、こんなことをしているのか。
それは、論文を書くためなのでしょうか。
わたしは、そんなことでは無いと思います。もちろん、それもあるかも知れません。論文は、彼らにとっては収入源ですから。しかし、もし、わたしが彼の立場でも、そうしたと思います。それは、フィードバック療法以外に、括約筋不全の患者に提供できる治療法が、あの時点では、手術以外に無かったからです。治療法がない疾患の診断と治療を担当することはつらいものです。だって、提供できる治療法が無ければ、なぜ、患者に対して、診断するための検査をしているのでしょうか。良心ある医者ならば、目の前の患者に対して、検査さえ出来ないはずです。つまり、このごろのはやり文句で言えば、「倫理上問題のある検査」ということになります。
だから、かれは、患者に提供できる形の治療を確立したかったのだと思います。そして、そのために、一群の論文の山を書き上げた。決してデータの捏造ではなく、、。しかし、その効果は、治療法そのものよりも、それを担当するナースの熱意によっていて、そして、彼は、それをはじめから見抜いていた。
おおくの、2番手を目指すしかないほどに「才能」ある医科学者たちは、彼のオリジナリティーに富む論文の魅力と命名の上手さに引きずられるように、その治療を行います。そしてよくあることですが、医者が良くなっていると思い込むと、良くなっているようなデータに思えてきます。
しかし、実際に自分で手を染めて、その治療を行ってみれば、その治療の限界が見えてきます。なのに、多くの医者には、彼の苦悩と目論見が見えない。
熱意を持って行えば、患者は良くなります。確かに良くなる。しかし、本当の理由を知るものはわずかだ、ということです。
このようにしてことが遂行して言ったのだろうと、わたしは思います。
わたしの意見に反対の方も多くいると思います。それはそれでよろしい。
しかし、確かにいえることは、医療者側の熱意が関係しているということです。しかし、これは、すべてのことにいえることといえば言えることなのですが。
わたしの提唱する8の字ダンスは、やはり熱意に関係する治療法といえばそれまでです、説明しましょう。
会陰部には括約筋が8の字になっていて、肛門と尿道を包んでいます。その8の字の括約筋を、まるでレーシングカーが8の字に走るように、8の字をなぞるように収縮させて、括約筋を鍛える、括約筋の収縮ダンスのことです。いま、8の字の右上を収縮させている、次に、中央を収縮させている、今度は、8の字の左下を収縮させている、今度は、下を回って、右下を収縮させている、そして中央にいたり、さらに、8の字の左上を収縮させている、、、というように、括約筋の収縮部位を8の字をなぞるように収縮させていくのです。これを括約筋の8の字ダンスと名づけました。ミツバチがお尻を振りながら、8の字に回転するのとは、少しイメージが異なりますが、まるで、ミツバチが、8の字の括約筋の上をダンスを踊りながら動き回るようなイメージで括約筋の訓練をするのです。これは、意識的に括約筋を訓練するという意味では、かなり、有効なイメージトレーニングです。
わたしの診察室では、括約筋不全の方には、このごろでは、まず、この方法を試してみて、不十分であれば、次の治療に入るようにしています。
括約筋の8の字ダンス、素敵な命名でしょ。
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