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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル46

【肛門の“8の字ダンス”

 

みなさん、ミツバチの8の字ダンスを知っていますか。

ミツバチがお花畑の場所を仲間に知らせるときに踊るダンスのことです。

巣箱の板の上でお尻をフリフリしながら8の字にダンスを踊り、場所や距離を教えるダンスのことです。このダンスの秘密を解読した科学者は、ノーベル賞を受賞しました。

そのダンスのように、でも、正確な意味ではそのダンスとは違うように、肛門の周囲を8の字に囲む括約筋を、8の字を描くように収縮させたり、弛緩させたりしながら、括約筋を鍛えて、便の失禁を治療したり予防したりする、ダンスのことです。

 

まず、グローバルスタンダードのフィードバック療法の話

肛門括約筋を鍛える方法には、フィードバック療法という治療法が有名です。フィードバックとは、「何かの行為をしたときに、それによる効果によって、さらにその行為が増強されたりあるいは抑制されたりする制御システム」を表わす言葉です。つまり、肛門括約筋の訓練で言えば、お尻の穴を収縮させたとき、その収縮度合いが、数字でわかったり、画像でわかったりすることによって、さらに、有効にお尻の穴をしめることができるようになる、というものです。平たく言えば、お尻を閉めるコツをつかむということですね。

たしかに、有効な治療のように感じられますね。お尻を閉めてくださいといっても、自分では、上手く閉められているのか、閉められていないのか、よくわかりません。それでは、訓練をしようにも、出来ませんね。それが、肛門の内圧を測定していれば、数字が上昇しますから、その数字を見ながら、確かに、上手に閉めることが出来るようになる、ということなのです。このための器具が売られていますし、子供用には、見ていて楽しくなるような動画つきのソフトもあります。いくつもの論文で、この治療の有効性が証明されているといいます。

しかし、ですよ。常識で考えてください。

モニターを見なければお尻を閉めているのかどうか、わからない、という方は、現実には少ないのです。それから、高価な機械やソフトを使わなくても、自分でその動きを一度、感知できれば、その後は、機械は必要なくなるのですね。

実は、フィードバック療法が有効だとする論文が多数出版された後で、フィードバックの機械を使って肛門の括約筋を訓練させた患者さんの群と、機械など何も使わないで訓練させた患者さんの群を比較して、効果に差が無かったという論文が、あるのですね。これは、わたしの常識に合致する結論でした。

だいたい、フィードバック療法のメッカとされる、英国のある病院のフィードバック治療の責任者が、このフィードバック治療の効果は、治療を担当したナースの熱意によって、治療効果が左右されるといっているくらいなのです。

つまり、どういうことなのかというと、フィードバックという治療そのものがすぐれているのではなく、患者と一体になって熱意を持って、肛門の収縮訓練をし続けることに意味があるということなのです。

これも、わたしの常識に合致します。

フィードバック療法などという行動心理学上流行の用語を使った名前をつけて論文用に仕上げてはいますが、これは、わたしに言わせれば、単に受け狙いの命名であって、治療の本質はそんなところにあるわけでは無いということです。

そして、この治療の開発者兼推進者は、実はそんなことは100も承知だということなのです。では、なぜ、100も承知でも、こんなことをしているのか。

それは、論文を書くためなのでしょうか。

わたしは、そんなことでは無いと思います。もちろん、それもあるかも知れません。論文は、彼らにとっては収入源ですから。しかし、もし、わたしが彼の立場でも、そうしたと思います。それは、フィードバック療法以外に、括約筋不全の患者に提供できる治療法が、あの時点では、手術以外に無かったからです。治療法がない疾患の診断と治療を担当することはつらいものです。だって、提供できる治療法が無ければ、なぜ、患者に対して、診断するための検査をしているのでしょうか。良心ある医者ならば、目の前の患者に対して、検査さえ出来ないはずです。つまり、このごろのはやり文句で言えば、「倫理上問題のある検査」ということになります。

だから、かれは、患者に提供できる形の治療を確立したかったのだと思います。そして、そのために、一群の論文の山を書き上げた。決してデータの捏造ではなく、、。しかし、その効果は、治療法そのものよりも、それを担当するナースの熱意によっていて、そして、彼は、それをはじめから見抜いていた。

おおくの、2番手を目指すしかないほどに「才能」ある医科学者たちは、彼のオリジナリティーに富む論文の魅力と命名の上手さに引きずられるように、その治療を行います。そしてよくあることですが、医者が良くなっていると思い込むと、良くなっているようなデータに思えてきます。

しかし、実際に自分で手を染めて、その治療を行ってみれば、その治療の限界が見えてきます。なのに、多くの医者には、彼の苦悩と目論見が見えない。

熱意を持って行えば、患者は良くなります。確かに良くなる。しかし、本当の理由を知るものはわずかだ、ということです。

このようにしてことが遂行して言ったのだろうと、わたしは思います。

 

わたしの意見に反対の方も多くいると思います。それはそれでよろしい。

しかし、確かにいえることは、医療者側の熱意が関係しているということです。しかし、これは、すべてのことにいえることといえば言えることなのですが。

 

わたしの提唱する8の字ダンスは、やはり熱意に関係する治療法といえばそれまでです、説明しましょう。

会陰部には括約筋が8の字になっていて、肛門と尿道を包んでいます。その8の字の括約筋を、まるでレーシングカーが8の字に走るように、8の字をなぞるように収縮させて、括約筋を鍛える、括約筋の収縮ダンスのことです。いま、8の字の右上を収縮させている、次に、中央を収縮させている、今度は、8の字の左下を収縮させている、今度は、下を回って、右下を収縮させている、そして中央にいたり、さらに、8の字の左上を収縮させている、、、というように、括約筋の収縮部位を8の字をなぞるように収縮させていくのです。これを括約筋の8の字ダンスと名づけました。ミツバチがお尻を振りながら、8の字に回転するのとは、少しイメージが異なりますが、まるで、ミツバチが、8の字の括約筋の上をダンスを踊りながら動き回るようなイメージで括約筋の訓練をするのです。これは、意識的に括約筋を訓練するという意味では、かなり、有効なイメージトレーニングです。

わたしの診察室では、括約筋不全の方には、このごろでは、まず、この方法を試してみて、不十分であれば、次の治療に入るようにしています。

括約筋の8の字ダンス、素敵な命名でしょ。


【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】


  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える