【潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?】
潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいのかどうか。これは本当はとても難しい問題です。
一人の医者の経験からは何も言えない問題です。
なぜ、医者としてものが言えないの、と、思うかも入れませんね。
医者としてものが言えないのだとしたら、なぜ、患者を目の前にしたスモールレクチャーで講義をする意味があるのか、と、いぶかしがるでしょうね。
まず、そもそも潰瘍性大腸炎に大腸がんが多いと言い出したのは、どんな人なの?って、思うでしょ。
まず、そのような経験をしたのは当然、潰瘍性大腸炎を数多く診る専門病院のドクターです。ちょっと普通と違う形の癌だぞ、おかしいぞ、と思うわけです。そして、データを出す。ここはまでは、専門病院の研究者として当然の仕事ですよね。(これさえやらない日本の専門病院のお医者様がたくさんいますが、そのような人にならないでくださいね)
データを調べると、一般人よりも高率に潰瘍性大腸炎の患者さんに大腸がんが多いということがわかる。
そこで、
「10年以上経過した全大腸炎型の潰瘍性大腸炎には大腸がんが高率に発生し、その形態は肉眼的にわかりずらい形をとる」
と警告に似た論文を発表するわけです。
このような発表をいち早くできるのは、当然!世界に冠たる専門病院で、すでに世界をリードしてきた病院ですから、その事実は世界中にドグマとして広がるわけです。真実と考えられたのですね。
そのドグマが、教科書に載っているわけです。
しかし、事実というのは、それが得られた範囲の中でのみ、事実なのです。限界がある、ということです。
このドグマは、範囲を変えることにより、別の事実によって否定されたのです。
北欧の医療はデータを広く得ることのできるシステムを持っています。実は、その国単位の範囲の中では、潰瘍性大腸炎に癌の発生率は発表されたほどには高くなかったのです。
では、最初に報告した人たちは嘘をついたのでしょうか。そうかもしれません。最初の報告の栄誉に浴しようとすることはよくあることですから。
でも、他人を疑うのは最後にすべきですね。先人の研究が嘘だったと仮定すると科学は一歩も前に行きません。しかし、間違いだったと考えればその理由を求めることになり、一歩前に進むのです。
最初の報告が高率であったのは、専門病院の宿命だったと考えられています。
専門病院には、重症な潰瘍性大腸炎の患者さんが集中します。そのような重症な患者さんにおいては、当然、癌化率が高い、という結果だったんだろうと、考えられました。
でも、ドグマはそのまま生き残ります。
何せ、最初の報告というのは、インパクトがあり、皆の心にしみこみます。また、良い雑誌にも乗ります。教科書にも載ります。研究者はドグマに沿うように、あるいは、反発するように研究結果を発表していきます。二番目の報告は、無視されることがあります。
その後、多くの施設から潰瘍性大腸炎の癌化率が報告されます。高かったりそれほど高くなかったり。報告によるばらつきは当然あります。多くの患者さんを相手にする研究報告ですから、母集団から抜け落ちる患者さんもあるでしょう。検査の精度も異なるのでしょう。
ところが、癌化率とそれが報告された年をグラフにプロットしていくと、なんと、近年になるに従い、少しずつ、癌化率は低く報告されるようになってきたのです。
研究者の心が少しずつ、ドグマから解放されてきたのを示すのかもしれません。
また、これは潰瘍性大腸炎の診断の精度が上がり、母集団の潰瘍性大腸炎の患者数が増えたせいかもしれません。これが理由であれば、イギリスの専門病院で報告された最初の頃の報告と後に報告された北欧のデータの違いに似た理由になります。
でも、もう一つ、可能性はあります。それは、現実に、潰瘍性大腸炎の患者さんに発生する癌が近年になり減ってきた可能性です。データを出す測定法は確かなのに、昔と同じデータが出ないということもあるのです。
記憶してください。病気は時代によって顔つきを変えます。
潰瘍性大腸炎の炎症を抑える治療が少しずつ上手になって、その結果として潰瘍性大腸炎に発生する大腸がんのリスクが、全体として減少した可能性を指摘する研究者もいるのです。
潰瘍性大腸炎という病気そのものではなくて、炎症が癌をおこすリスクを上げていたのだとしたら、もっともな解釈です。
それならば潰瘍性大腸炎の患者さんに対しても朗報です。炎症を抑える毎日の治療が大腸がんの発生を抑えるのですから、すべてのために、炎症を抑えていけばいいといえるのです。
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