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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル37



【直腸異物】

 

今日は直腸遺物の話をします。いや、失礼、異物でした。

 

直腸異物と診断される病気は、「直腸の中に、あってはならないものが入って取れなくなってしまった」という病態をいうものです。

直腸の中に、便があるのは当たり前です。時に便が硬くなり、なかなかでなくなってしまうことはありますが、これは、異物とは呼びません。糞石とよび、異物とは、一線を画します。

 

なんというか、つまり、直腸の中に入ってしまったものには、実にいろいろなものがあります。たいていは「大人のおもちゃ」です。

私自身が経験したなかで、記憶に残っているのは、2症例で、ものは小型マッサージ器です。お二方とも、男性の方でした。(きっと、もっと多くの症例を経験していると思いますが、いちいち記憶していないので、忘れてしまっているのだと思います。)

 

さて、近頃経験した男性の場合は、長さ、17cm、太さ38mmのピンク色のマッサージ器でした。痔の薬を直腸の奥まで入れようとして、マッサージ器をつかい、誤って、そのすべてを腸の中に入れてしまった方です。幸い、電池をいれず、勿論、スイッチも入っていなかったので、大事には至りませんでした。この病気の場合、症状が出なければ、すぐに来院することは少なく、その方も、2日後に来院されました。おそらく、自然排出されるのを待っていたのだろうと思います。残念ながら、自然排出されず、(されるはずなく、)来院されました。まことに、すまなそうな表情をしていましたが、たしかに、さぞかし、悔やんだことでしょう。痔の薬を入れようとしたのに、誤って、17cmすべてを入れてしまって取れなくなってしまったのですから。変に誤解されたくなかったので、専門医のわたしの元に来院されたようです。幸い、麻酔をかけた段階で、肛門から取り出すことに成功し、手術をせずにすみましたが、場合によっては、手術して取らなければならないこともあります。

 

報告例では、スイッチが入ったまま、直腸の中に入ってしまった例では、死亡例もあるようですから、出来るだけ、スイッチを切っておかなければいけません。

 

直腸に座剤を入れるときには、誰でも経験すると思いますが、最初は、なかなか直腸の中に、薬は入りません。しかし、あるところまで、押し込んでやると、ふっと、自然に入り込んでしまうところがあります。その方も、なかなか入らなくて、押し込んでも、押し戻されるので、押し込んでいたら、あるところで、すっと入り込んでしまったのではないかと思います。これは、肛門の括約筋の自然な弛緩反射で、これが起こった瞬間には、もう、公開しても後の祭りです。入り込んでしまって、引き戻すことが出来ません。生理的な反射とは怖いものです。

 

ところで、このピンクのマッサージ器のケースには、「体の疲れた部位に当てて、マッサージをしてください」と、使用説明が書かれてありました。しかし、肛門で使う場合の注意事項は書いてありません。もし、肛門が疲れていて、使ったとすると、(たいていの場合は、肛門がある種の疲労を伴ったために使われるのであろうと思うのですが、今回の場合は、座剤を入れるために使ったということで、目的外使用ですから、製造メイカーには責任はありませんが)この反射に対する注意を消費者に喚起していないのは、裁判になれば製造主が負けるのかもしれません。

 

今回は、直腸遺物の話をしました。いや、異物でした。でも、遺失物であることは確かですね。


【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】


  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える