【虚血性大腸炎】
虚血性大腸炎についてお話をしましょう。これは、ときどきお目にかかる病気ですので、虚血性大腸炎という名前は、どこかで聞いた事があるかもしれませんね。老人に多いと教科書に書かれるけれど、まだまだ自分は若いと思っているぐらいの年齢の方に多い病気です。
虚血とは、血の巡りが悪くなったということです。血が完全に通わなければ、腸が腐ってしまいます。腸がどの程度腐りそうかということで、虚血性腸炎の程度を分類するのが一般的です。既成の分類にこだわらず、理論的にここで分類を作ってみましょう。こういう訓練が、臨床医の考え方を育てる意味で、大切なのですね。
まず、程度0は、血の通わない程度〔虚血の程度〕がごく軽度で、粘膜障害が見た目にはっきりしないか、粘膜が軽くむくむだけのもの。症状としては、腹痛だけかな。いや、多分下痢もあるでしょう。(こんなものは、診断できないでしょうから、幻の虚血性腸炎かもしれないけれど、一応、概念上、こういうものも考えておきましょう。)
次は、程度1.虚血で、粘膜のみ障害を受けるもの、むくみがひどく、粘膜から出血を伴うもの。症状としては、腹痛と下血〔血便〕です。この状態を大腸内視鏡で観察すると、著しく向くんだ粘膜とその部の点状、斑状発赤、出血を認めます。注腸造影検査を行なうと、thumb printingという指の腹で押されたような、有名な所見を認めることができて、診断に迷うことはありません。
程度2.虚血で粘膜だけではなく、固有筋層も障害を受け、腸が狭窄を起こす、状態にまで、悪化したもの。この状態をみると、大腸癌との鑑別をしなければいけませんね。典型的な虚血性大腸炎の狭窄と大腸癌の狭窄はまったく別のものですが、現実には、典型的でないものも多いですから、注意深く取り扱うことが必要なのですね。虚血性大腸炎による狭窄は、大腸癌による狭窄と異なり、閉塞症状が出にくいのが面白い点です。そして、この狭窄は、時間とともに、改善するものです。
程度3.程度2よりも進んで、時間とともに改善がないもの。
程度4.虚血のために、腸の壁がくさり、穴が開いてしまうもの。こういうものは、絶対的に手術が必要になります。
何も資料を見ないでもこのような分類ができますね。まず、考えていくことが大事です。しかし、医学では、理論上の分類に現実の疾患が合うかどうか、常に検討することが必要なのですね。理論上考えられる疾患群でも、現実には1万回にに1回ぐらいしかいない頻度だとしたら、現実的なものではありません。実際の診療に役立たないばかりか、かえって邪魔になります。医学を学ぶとは、こういうことなのですね。
さて、なぜ、上のような分類ができたのでしょうか。それは、大腸の血液の流れにおける解剖学的な特徴から、考えられるのでしたね。大腸は、右半分は、上腸間膜動脈によって、左半分は、下腸間膜動脈によって栄養されています。それらの枝が大腸の外側から大腸の壁を貫いて入っていくのですが、その様式にしたがって、それらの詰まり具合によって、粘膜から障害を受けることになるのです。
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