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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル11

【虚血性大腸炎】

虚血性大腸炎についてお話をしましょう。これは、ときどきお目にかかる病気ですので、虚血性大腸炎という名前は、どこかで聞いた事があるかもしれませんね。老人に多いと教科書に書かれるけれど、まだまだ自分は若いと思っているぐらいの年齢の方に多い病気です。

虚血とは、血の巡りが悪くなったということです。血が完全に通わなければ、腸が腐ってしまいます。腸がどの程度腐りそうかということで、虚血性腸炎の程度を分類するのが一般的です。既成の分類にこだわらず、理論的にここで分類を作ってみましょう。こういう訓練が、臨床医の考え方を育てる意味で、大切なのですね。

まず、程度0は、血の通わない程度〔虚血の程度〕がごく軽度で、粘膜障害が見た目にはっきりしないか、粘膜が軽くむくむだけのもの。症状としては、腹痛だけかな。いや、多分下痢もあるでしょう。(こんなものは、診断できないでしょうから、幻の虚血性腸炎かもしれないけれど、一応、概念上、こういうものも考えておきましょう。)

次は、程度1.虚血で、粘膜のみ障害を受けるもの、むくみがひどく、粘膜から出血を伴うもの。症状としては、腹痛と下血〔血便〕です。この状態を大腸内視鏡で観察すると、著しく向くんだ粘膜とその部の点状、斑状発赤、出血を認めます。注腸造影検査を行なうと、thumb printingという指の腹で押されたような、有名な所見を認めることができて、診断に迷うことはありません。

程度2.虚血で粘膜だけではなく、固有筋層も障害を受け、腸が狭窄を起こす、状態にまで、悪化したもの。この状態をみると、大腸癌との鑑別をしなければいけませんね。典型的な虚血性大腸炎の狭窄と大腸癌の狭窄はまったく別のものですが、現実には、典型的でないものも多いですから、注意深く取り扱うことが必要なのですね。虚血性大腸炎による狭窄は、大腸癌による狭窄と異なり、閉塞症状が出にくいのが面白い点です。そして、この狭窄は、時間とともに、改善するものです。

程度3.程度2よりも進んで、時間とともに改善がないもの。

程度4.虚血のために、腸の壁がくさり、穴が開いてしまうもの。こういうものは、絶対的に手術が必要になります。

何も資料を見ないでもこのような分類ができますね。まず、考えていくことが大事です。しかし、医学では、理論上の分類に現実の疾患が合うかどうか、常に検討することが必要なのですね。理論上考えられる疾患群でも、現実には1万回にに1回ぐらいしかいない頻度だとしたら、現実的なものではありません。実際の診療に役立たないばかりか、かえって邪魔になります。医学を学ぶとは、こういうことなのですね。

さて、なぜ、上のような分類ができたのでしょうか。それは、大腸の血液の流れにおける解剖学的な特徴から、考えられるのでしたね。大腸は、右半分は、上腸間膜動脈によって、左半分は、下腸間膜動脈によって栄養されています。それらの枝が大腸の外側から大腸の壁を貫いて入っていくのですが、その様式にしたがって、それらの詰まり具合によって、粘膜から障害を受けることになるのです。

   【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】

  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える