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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル 4

【大腸がんの話】

大腸がん(大腸癌)の話をします。

大腸癌とは組織学的には、腺癌です。ポリープの項でもお話ししましたが、癌といても粘膜内にとどまる癌組織と、粘膜筋板を破って粘膜の下の粘膜下層と呼ばれるところに到達した癌組織とでは、生物学的にまったく異なった振る舞いをします。


簡単に言えば、粘膜内癌は良性の腺腫と同じと考えてください。癌ではないのです。粘膜下層より深く進んだ癌だけ悪性の癌と考えてください。癌という言葉をつかいながら癌ではないというのは、ポリープの項でも話したように、複雑な話になっているのですが、ごく簡単に、粘膜下層以深の癌だけが癌なのだと理解してください。

ですから、もし、あなたが、大腸癌であるポリープを大腸内視鏡検査で切除した場合には、それが粘膜内癌であれば、それで治療は完了です。(取り残しがなければ、の話ですが)

では、大腸癌が粘膜内癌ではなかったけれど、粘膜筋板をちょっとだけ破ってほんのわずか粘膜下層に浸潤しているだけだたら、そういう癌は、癌なのでしょうか。生物の話が、そんなにくっきり、ひとつのところを境に、話が、変わってしまうのかって、信じられないかも知れませんね。いい感覚です。多くの施設で、「ちょこっと粘膜下層癌」は、大腸内視鏡検査で切除した場合、それで治療を終わりにしてもいいのか、あるいは、手術で大腸を大きく取るべきなのか、検討されてきました。そしてその結果は、大腸癌が粘膜筋板を破ったとしても、その距離が1mmぐらいまでなら、現実的には、大腸を手術しなくても、大腸癌は治っているということが分かってきたのです。ですから、大腸癌は大腸癌でも「粘膜内癌」と「粘膜下ちょこっと癌」は癌でないと考えて治療を進めてよいということです。
         
また、話が複雑になってしまいました。複雑な話をまとめてみます。
1.大腸癌は、大腸癌でも、粘膜内癌は癌でない。日本では癌と呼ばれるが、西洋では癌と呼ばれない。
2.粘膜下層よりも浸潤した癌は日本でも西洋でも大腸癌と呼ばれるが、粘膜下層へちょこっと浸潤した大腸癌は、大腸内視鏡でとってしまえば、結局、粘膜内癌と同じだ。つまり、西洋で癌と呼ばれなかったものと、医学的には同じことだ。

どこまでの、そして、どんなふうな浸潤が、ちょこっと浸潤であるのか。それは、浸潤の深さが粘膜筋板から 1mm とか 0.8mm とかの距離であるといわれるし、大腸癌組織の分化度が低分化傾向(まだ説明していませんね。後で、説明します)がないものとか、いくつかの特徴が言われています。
           
さて、粘膜下層と呼ばれるところ以上に浸潤した大腸癌は、どのくらい治ったり、治らなかったりするのでしょうか。これは、医療にとってはとても大事な問題で日常的な問題ですから、簡単にどんな医者でも簡単に利用できる方法でわからなければ、実際の診療では役に立つとはいえません。時々、えらい大学のお医者様は、むずかしい方法論を用いて、これを説明しようとします。それを研究ということだと履き違えているのではないかと思うような発言をしている学者様がたくさんいます。でも、その多くは、10年もたつと、学会的に目新しさがなくなって、消えてなくなってしまうような方法なのです。ところが優れた方法というのは、簡単で誰でも理解可能ですから、〔つまり、学者じゃなくても理解できる。極端にいうと、素人でも理解できるもので、学者様の威厳がなくなるような方法なのです。〕
イギリスのDukesという学者の名前を冠して呼ばれる分類法は、至極簡単で、忙しすぎたり、頭がゆるかったりする医者でも理解できる分類法です。大腸癌を割って、横から見て、癌がどのくらいの深さまで浸潤しているか、ということで、形の分類をします。ところが、その「形の分類」が、なんと、治りやすさの分類をも見事の示しているのです。大腸癌が大腸の筋肉の壁(固有筋層といいます)を破っていなければ、Dukes' A と分類し、筋肉の壁を破っていれば、Dukes' B と呼びます。そして、リンパ節に転移していれば、深さに関係なくDukes' Cと呼ぶのです。そうすると、治りやすさ〔生存率〕を予想することが可能で、Dukes' A5年生存率で90%以上、Dukes' B80%、リンパ節に転移しているDukes' Cの大腸癌でさえ、45%の患者さんが、治るのです。そして、このデータは、抗がん剤が効果的に用いられたとはいえない時代のものですから、抗がん剤が効果的に用いられるようになった、近年では、もう少し、よい結果なのではないでしょうか。

(ところで、本当に効く抗がん剤を、本当にやるべき患者さんに行なうべきで、効かない抗がん剤をやる必要のない患者さんにやっている病院はありませんか?また、その逆もありませんか?)

 
【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】

  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える