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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル33



【内痔核 その対称性の乱れ】

 

三大肛門疾患と呼ばれるものは、内痔核、裂肛、痔ろうです。そのうちの最も頻度の多いといわれる内痔核の話をしましょう。

内痔核は、直腸下端にある膨隆したものです。その主なものは静脈叢で、つまり、微小な血管の塊です。血管には血が流れてくる流入血管というものが必ずありますが、内痔核の場合、痔動脈と呼ばれるものが、それです。図を見てください。大動脈から下腸間膜動脈が分枝し、そのいく本かの枝を分枝しながらその本幹は上直腸動脈と呼ばれるものになります。そして、それが、直腸の粘膜下を走行する痔動脈と呼ばれる3本の血管になり、内痔核という静脈叢に流入するのです。

また、図を見てください。図は、下からお尻を覗き見たときのお尻を開いて観察した時の肛門の模式図です。もっとも外側の円が普段は閉じている肛門の外側の皮膚縁を示します。肛門を菊のご紋にたとえたときの中心に当たります。図の波線が肛門管の中ほどの、組織学的に直腸と肛門の境界線で歯並びのように波打っていますので、歯状線と呼ばれます。さらに中心の小さな円が、肛門の外側から観察したときの直腸の稜線です。すると、内痔核は、波線で表わされた歯状線と直腸の稜線の間にあることになります。わかりますか、ここまでは。内痔核は、一般的に3箇所あることになっていて、その存在部位は、肛門の図をアナログ時計に見立てれば、3時と7時と11時の3箇所にあるのです。

この知識は、内痔核を診察するときに、大きな武器となりますから、よく、覚えておいてください。医学書には、たいていここまでは書いてあります。しかし、この後のことを書いてくれている肛門科の著書はほとんどありません。

不思議だと思いませんか。人間のからだは、たいてい、左右対称です。でも、なぜ、内痔核は、左右対称になっていないのでしょう。

この疑問に答えてくれる肛門科の教科書はなかなか見当たりませんでした。調べてみたのですけれど。

肛門科の医者ならば、内痔核が基本的には3箇所あることを知らないはずがありません。知らなければ、にせ医者かもしれません。3時と7時と11時方向にあることも、知らなければ、肛門科の医者ではないでしょう。でも、貴方の主治医にそっと聞いてみてください。試される医者は、つらいでしょうね。「なぜ、左右対称ではないのですか」と。それに明快に答えられたら、さすが、その方は博学です。たいていは、答えられないかもしれません。「そうなっているんだから仕方ないだろ。」ですって?めんどくさそうに答えるお医者様、確かにそれはそれで正しいのですが、合理的な意味づけがほしいのですね、ものごとというものには。

わたしの知る解答を記します。

それは、単に、血管の解剖学的な走行によります。下腸間膜動脈が上直腸動脈に分岐するとき、左右の2本に分かれます。その後、その右の枝だけが、前後に枝分かれします。

ですから、肛門の左側には中央に1本の痔動脈が3時方向にあり、肛門の右側には枝分かれした2本の痔動脈が7時と11時の方向にあることになるのです。その結果、肛門の血液の流れは、左右対称性が崩れるというわけです。合理的な説明でしょ。

結果だけ見ると不思議な対称性の崩れですが、これで、なんとなく納得できるのですね。

でも、わたしが今までに内痔核の3時、7時、11時の存在部位の講義をしたときに、この対称性の崩れを不思議がって質問してきた学生は一人もいませんでした。そのことのほうが不思議だなぁと思います。学生は素人みたいなもの。医師が不思議に思わなくなったことも不思議に思える若さがあるはずではなかったのですか。

それとも、医学生は、解剖的な事実を事実として受け入れることに慣れていて、不思議だと思わなくなっているのでしょうか。

「でも、なぜ、右の枝だけ2本にわかれるのか?」ですって。その合理的な説明は、、、、また、別の機会にお話しすることにしましょう。

   【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】

  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える