【腸閉塞と例え話、あるいは、例え話の閉塞状況】
腸閉塞は、腸内容が流れない状態を言います。実際に閉塞していることもありますし、機能として流れないこともあります。このように「閉塞」してしまうと、腸の中に体の液体が移動し、その部位の腸はその分、拡張することになります。腸の直径が6cmを超えると、腸自体へ行く血液の流れが阻害され、腸が虚血状態になるといわれます。危険な状態ですが、腸閉塞で腸の径が6cm程度になることは、日常臨床では良くあることで、そのほとんどの患者さんでは、何事もなかったように治っていくことも、事実です。
外科医にとって、最も多い、腸閉塞の原因は、手術後の癒着による腸閉塞です。
癒着性の腸閉塞の解説をしましょう。
あるところで腸が癒着して、運動が制限されると、図のように、何かの加減で、腸が膨れたとき、折れ曲がり、癒着部位より下流では、膨れて上流で圧迫を受け、押しつぶされて、「閉塞」がひどくなります。そして、この悪循環のために、さらに、「閉塞」は悪化するのです。
これは、道路工事の車線制限されたときに起こる交通渋滞によく似ています。患者さんにはこのたとえを使って説明しています。
車の通り道が減らされたとき、多くの車が、その少ない道にいっせいに押し寄せれば、1台も通れない大渋滞となりますが、整然と少しずつ通るならば、車の通行は可能で、渋滞も改善されてきます。
まさに、腸閉塞の場合もこれと同じで、狭くなった腸にたくさんの腸内容が押し寄せれば、何も通過できない、「腸閉塞」になります。拡張した腸管の中の大量の腸内容と亢進した腸の蠕動運動とが、これにあたります。ですから、この「腸閉塞」という交通渋滞を緩和させるには、腸内容を減少させ、腸蠕動を抑制することが、適切な治療ということになります。閉塞をなんとか通そうとして、腸を動かすような薬を使うことは、交通渋滞では、ご法度なのは、理解できると思います。
ですから、腸閉塞のときは、鼻から管を挿入して、胃や腸の内容物を吸い上げる治療や絶食治療が行なわれます。これは、経験した方も多いでしょう。同時に、点滴で、腸の蠕動を抑制する薬を使うのです。
ところが、ところが、これと反対な治療をして、腸閉塞が改善することもあります。
ガストログラフィンという造影剤は、腸閉塞の部位の検査に使うことがありますが、これは、強力な下剤作用を持っています。ですから、腸閉塞のときこれを使うと、腸閉塞が悪化してしまいます。うかつに使うことが出来ないものなのですが、腸閉塞の経過の中で、これを使って検査すると、それをきっかけに、腸閉塞が劇的に良くなることも、多く経験されます。これを、体系的に臨床研究した論文もあり、その有用性が証明されてもいます。
では、私が、今まで述べてきた、交通渋滞の改善方法に似た腸閉塞治療法はうそなのでしょうか。いえ、うそではありません。しかし、あるとき、それと反対の治療も効果があるということは、どういうことなのでしょうか。話が矛盾していますね。
しかし、よく、考えてください。交通渋滞をたとえ話にして、腸閉塞を理解知ることは容易でした。容易にするために使うのがたとえです。しかし、腸閉塞は、交通渋滞ではないのですね。ですから、たとえ話では、矛盾することも、実は、現実で論理的に矛盾しているわけではなく、たとえ話の限界として理解してください。
世の中では、たとえ話がとても上手く出来ていると、そのたとえ話に合わないということで、現実のほうをまげて考えようとしてしまうことがよくあります。これは、医学でも、科学でも、政治経済でも、社会学でもそうですね。
でも、たとえ話以外に物事を理解するということが、果たして私たちに可能なのでしょうか。話を聞いて、理解できるまでに時間がかかることがありますが、理解の遅れは、どうして起きるのか、これはたとえ話を形成する時間じゃないかとも、思うわけです。
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