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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル23



【腸閉塞と例え話
あるいは、例え話の閉塞状況

 

腸閉塞は、腸内容が流れない状態を言います。実際に閉塞していることもありますし、機能として流れないこともあります。このように「閉塞」してしまうと、腸の中に体の液体が移動し、その部位の腸はその分、拡張することになります。腸の直径が6cmを超えると、腸自体へ行く血液の流れが阻害され、腸が虚血状態になるといわれます。危険な状態ですが、腸閉塞で腸の径が6cm程度になることは、日常臨床では良くあることで、そのほとんどの患者さんでは、何事もなかったように治っていくことも、事実です。

外科医にとって、最も多い、腸閉塞の原因は、手術後の癒着による腸閉塞です。

癒着性の腸閉塞の解説をしましょう。

あるところで腸が癒着して、運動が制限されると、図のように、何かの加減で、腸が膨れたとき、折れ曲がり、癒着部位より下流では、膨れて上流で圧迫を受け、押しつぶされて、「閉塞」がひどくなります。そして、この悪循環のために、さらに、「閉塞」は悪化するのです。

これは、道路工事の車線制限されたときに起こる交通渋滞によく似ています。患者さんにはこのたとえを使って説明しています。

車の通り道が減らされたとき、多くの車が、その少ない道にいっせいに押し寄せれば、1台も通れない大渋滞となりますが、整然と少しずつ通るならば、車の通行は可能で、渋滞も改善されてきます。

まさに、腸閉塞の場合もこれと同じで、狭くなった腸にたくさんの腸内容が押し寄せれば、何も通過できない、「腸閉塞」になります。拡張した腸管の中の大量の腸内容と亢進した腸の蠕動運動とが、これにあたります。ですから、この「腸閉塞」という交通渋滞を緩和させるには、腸内容を減少させ、腸蠕動を抑制することが、適切な治療ということになります。閉塞をなんとか通そうとして、腸を動かすような薬を使うことは、交通渋滞では、ご法度なのは、理解できると思います。

ですから、腸閉塞のときは、鼻から管を挿入して、胃や腸の内容物を吸い上げる治療や絶食治療が行なわれます。これは、経験した方も多いでしょう。同時に、点滴で、腸の蠕動を抑制する薬を使うのです。

ところが、ところが、これと反対な治療をして、腸閉塞が改善することもあります。

ガストログラフィンという造影剤は、腸閉塞の部位の検査に使うことがありますが、これは、強力な下剤作用を持っています。ですから、腸閉塞のときこれを使うと、腸閉塞が悪化してしまいます。うかつに使うことが出来ないものなのですが、腸閉塞の経過の中で、これを使って検査すると、それをきっかけに、腸閉塞が劇的に良くなることも、多く経験されます。これを、体系的に臨床研究した論文もあり、その有用性が証明されてもいます。

では、私が、今まで述べてきた、交通渋滞の改善方法に似た腸閉塞治療法はうそなのでしょうか。いえ、うそではありません。しかし、あるとき、それと反対の治療も効果があるということは、どういうことなのでしょうか。話が矛盾していますね。

しかし、よく、考えてください。交通渋滞をたとえ話にして、腸閉塞を理解知ることは容易でした。容易にするために使うのがたとえです。しかし、腸閉塞は、交通渋滞ではないのですね。ですから、たとえ話では、矛盾することも、実は、現実で論理的に矛盾しているわけではなく、たとえ話の限界として理解してください。

世の中では、たとえ話がとても上手く出来ていると、そのたとえ話に合わないということで、現実のほうをまげて考えようとしてしまうことがよくあります。これは、医学でも、科学でも、政治経済でも、社会学でもそうですね。

でも、たとえ話以外に物事を理解するということが、果たして私たちに可能なのでしょうか。話を聞いて、理解できるまでに時間がかかることがありますが、理解の遅れは、どうして起きるのか、これはたとえ話を形成する時間じゃないかとも、思うわけです。

   【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】

  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える