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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル 7

【直腸カルチノイド】

カルチノイドとは、ちょっと変わった名前です。なぜなら、自己主張をしないで、「あいつと似ている」といっているに過ぎないのですから。

 

カルチは、「癌」という意味です。ノイドは「類」という意味、つまり、「もどき」という言葉です。直訳すれば、「癌もどき」ということになります。

悪性であるが、癌より悪性度が低いという意味に、理解されやすいのですが、そもそもが「生まれの」異なる病気です。

癌は、外胚葉由来の腫瘍です。消化管の癌は、消化管の一番内側の「粘膜」から発生する主要です。一方、カルチノイドは、内分泌細胞由来の腫瘍です。つまり、もともと、起源が異なるのです。ですから、このごろでは、カルチノイドとよぶのをきらって、消化管内分泌細胞腫という人もいますが、そうはいっても、カルチノイドという、愛着のある名前を捨てる気になれない医者もたくさんいます。愛嬌のある名前ですから。

 

カルチノイドがあると、それが分泌するセロトニンによって、異常発汗や動悸、顔面蒼白などの、いわゆるカルチノイド症候群が起こることがあり、それが有名ですが、直腸のカルチノイドでは、カルチノイド症候群はほとんどおこらないと考えてください。

 

直腸の小さなカルチノイドは、内視鏡をしているとよく、お目にかかります。たいていは、5mm程度のものです。1cmぐらいまでのものは、まず、良性と考えて差し支えありませんが、2cmをこえると、リンパ節転移を起こす率がおおく、直腸癌と同様の治療が必要になります。表面に臍のようなクボミが出来ているときは、さらにその危険があると考えます。

 

カルチノイドは、内視鏡でみると、半球状に突出した腫瘍として見えます。表面の粘膜には異常はありませんが、粘膜を透かして、やや黄色味を帯びた白色の腫瘍として、見えます。

直腸には、ほんと、カルチノイドが多いので、いわゆる粘膜下腫瘍をみたらカルチノイドと考えてもたいていあたるくらいです。

 

しかし、この黄色味を忘れてはいけせん。黄色味が無いときは、カルチノイドではないかもしれません、と、ひとこと大きな声で言っておくべきです。後述するGISTのこともありますから。

 

これは、2cm程度の粘膜下腫瘍の場合はとても大事なことになります。

つい最近20歳代後半の主婦が2cmのカルチノイド、それも、とても肛門に近い位置ということで、セカンドオピニオンを求めて、わたしの外来にやってきました。2cmのカルチノイドであれば、肛門もとらなくてはいけない場所です。前医では、カルチノイドといわれていました。しかし、わたしが見ると、黄色味が無いのですね。GIST(gastrointesitnal stromal tumor)の可能性が高いな、と直感的に思いました。

患者さんにも、そういいました。GISTなら、2cmは、ほとんど良性です。

腫瘍だけを取る小さな処置をしました。案の定、GISTでした。

このときは、ちゃっかり、自分でも、名医かなと思いましたね。前医は、自分の指導者だったことのある方でしたから。

   【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】

  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える