カルチノイドとは、ちょっと変わった名前です。なぜなら、自己主張をしないで、「あいつと似ている」といっているに過ぎないのですから。
カルチは、「癌」という意味です。ノイドは「類」という意味、つまり、「もどき」という言葉です。直訳すれば、「癌もどき」ということになります。
悪性であるが、癌より悪性度が低いという意味に、理解されやすいのですが、そもそもが「生まれの」異なる病気です。
癌は、外胚葉由来の腫瘍です。消化管の癌は、消化管の一番内側の「粘膜」から発生する主要です。一方、カルチノイドは、内分泌細胞由来の腫瘍です。つまり、もともと、起源が異なるのです。ですから、このごろでは、カルチノイドとよぶのをきらって、消化管内分泌細胞腫という人もいますが、そうはいっても、カルチノイドという、愛着のある名前を捨てる気になれない医者もたくさんいます。愛嬌のある名前ですから。
カルチノイドがあると、それが分泌するセロトニンによって、異常発汗や動悸、顔面蒼白などの、いわゆるカルチノイド症候群が起こることがあり、それが有名ですが、直腸のカルチノイドでは、カルチノイド症候群はほとんどおこらないと考えてください。
直腸の小さなカルチノイドは、内視鏡をしているとよく、お目にかかります。たいていは、5mm程度のものです。1cmぐらいまでのものは、まず、良性と考えて差し支えありませんが、2cmをこえると、リンパ節転移を起こす率がおおく、直腸癌と同様の治療が必要になります。表面に臍のようなクボミが出来ているときは、さらにその危険があると考えます。
カルチノイドは、内視鏡でみると、半球状に突出した腫瘍として見えます。表面の粘膜には異常はありませんが、粘膜を透かして、やや黄色味を帯びた白色の腫瘍として、見えます。
直腸には、ほんと、カルチノイドが多いので、いわゆる粘膜下腫瘍をみたらカルチノイドと考えてもたいていあたるくらいです。
しかし、この黄色味を忘れてはいけせん。黄色味が無いときは、カルチノイドではないかもしれません、と、ひとこと大きな声で言っておくべきです。後述するGISTのこともありますから。
これは、2cm程度の粘膜下腫瘍の場合はとても大事なことになります。
つい最近20歳代後半の主婦が2cmのカルチノイド、それも、とても肛門に近い位置ということで、セカンドオピニオンを求めて、わたしの外来にやってきました。2cmのカルチノイドであれば、肛門もとらなくてはいけない場所です。前医では、カルチノイドといわれていました。しかし、わたしが見ると、黄色味が無いのですね。GIST(gastrointesitnal stromal tumor)の可能性が高いな、と直感的に思いました。
患者さんにも、そういいました。GISTなら、2cmは、ほとんど良性です。
腫瘍だけを取る小さな処置をしました。案の定、GISTでした。
このときは、ちゃっかり、自分でも、名医かなと思いましたね。前医は、自分の指導者だったことのある方でしたから。
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