【別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
ブラッドパッチEMR法 (blood patch EMR)の紹介】
この章では、私が開発した、安全性を重視した新しい大腸ポリープ切除(ポリペクトミー)の方法を紹介します。(もちろん大腸ポリープだけでなく、胃などの他のポリープにも応用可能です。)
大腸内視鏡検査で発見された大腸ポリープは、特殊な「輪になったワイヤー」を用いて、電気を流しながら切除することが出来ます。これは、「ポリペクトミー」と呼ばれる方法です。
このポリペクトミーには欠点がありました。それは、通電をすると大腸の壁全体が焼けて穴が開いてしまうことがあることです。
また、キノコのように盛り上がった形の大腸ポリープはとりやすいのですが、平坦な大腸ポリープは輪をかけることができませんので、ポリペクトミー(ポリープを切除すること)ができないという決定的な欠点がありました。
そこで登場した方法が、EMR(内視鏡的粘膜切除術)と呼ばれるポリペクトミーの方法です。ストリップバイオプシーと呼ばれたこともあります。
それは、大腸ポリープの下(粘膜下層)に生理食塩水を注入して粘膜を盛り上げる方法で、平坦なポリープをキノコのような形のポリープと同じようにして、切除する方法です。
しかし、この方法にも欠点がありました。
生理食塩水はすぐに吸収されて、程なく、平坦に戻ってしまうことです。(これは手技上の欠点です。下手な方は、あわててEMRをしなければならないので、とても危険です。)
さらに、粘膜下に注入する生理食塩水には、出血を予防する作用がありませんでした。最初からそんなことは考えられていませんでした。(これは安全性に対する大きな欠点でした。)
さらに、さらに、ポリペクトミーされた部分(つまり、粘膜が剥離された部分)には、何もなくなって、壁が薄くなります。穿孔(大腸に孔があくこと)を予防する手段が何もとられていませんでした。(これも安全性に対する大きな欠点です。)
生理食塩水を用いた、一般的におこなわれるEMRには、これらの欠点がありながら、今までの内視鏡医の方々は、なぜ、新しい方法を考えなかったのか、わたしには不思議でなりません。
わたしは、その解決として、ブラッドパッチEMR (blood patch EMR)という、新しい方法を開発しました。
それは、きわめて簡単な方法で、コロンブスの卵のような方法です。
生理食塩水の代わりに、患者さん自身の血液を、粘膜下層に注入し、それ以外は、従来どおりに、EMRをする方法です。
すると、打ちこめられた血液がちょうどいい具合に血糊となって、出血を防止しますし、粘膜が切除されて薄くなった大腸壁を、血液がパッチして、守ってくれるのです。だから、ブラッド(血液)パッチEMRと名づけました。
血液はからだに害はありません。内出血しているのと同じですから。生理食塩水に、薬を混ぜて、出血を防止するような方法とは大いに異なるところです。
また、長い時間、粘膜の盛り上がりを保ちますので、手技的にも時間に追われてあわてなくてすみます。
そして、自分の血液は、安い。つまり、ただです。
出血防止、大腸壁保護、無害、盛り上がりの長時間化、安い、、、まさに、1石5鳥の ブラッド パッチ EMRです。
しかし、注意があります。
このブラッドパッチEMRは、すぐれた方法です(と、私は思っています。)が、無闇に、主治医に、「このブラッドパッチEMRの方法で、大腸ポリープをとってほしい」と頼まないでください。なぜならば、どのようなすぐれた方法でも、慣れていない場合には、かえって失敗を起こす可能性が高く、危険なのです。
新しい手技を導入するには、それなりの準備と実力が必要ですから。
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