新肛門手術について Fclinic guide

直腸がんや肛門がんでも人工肛門(ストーマ)にならない方法があります。

 第7章 
年余にわたってストーマ(人工肛門)をつけてきた方への新肛門手術


「長年、人工肛門(ストーマ)をつけてきましたが、新肛門手術は可能なのでしょうか。」
このようなお尋ねを、本当に数多く受けます。

この質問に「イエス」と答えられなければ、この新肛門の手術は十分といえないと痛感しています。

まず、はじめに理解していただきたいのですが、直腸癌手術のときに新肛門の手術を同時に行う、1995年以来行ってきた新肛門手術と、何年も前に直腸癌手術をされて人工肛門になっている方に新たに新肛門を作成するのとは、まったく次元の異なる手術だったのです。

現状(2005年12月28日現在)をお話します。

何年も前から人工肛門になっている方に新肛門を作るためには、乗り越えなければならない、五つのハードルがありました。

@ もう1度お尻に新肛門を作成するためには、腸が肛門まで届くかどうかということ(物理的な問題です)

A 前回の直腸癌手術で骨盤腔は激しい癒着に陥っています。それを剥離していかなければならないという手術遂行上の困難さ。(再手術における癒着の問題です)

B 何年も前に切断された陰部神経を、瘢痕組織の中で探し出す手術の困難さも予想されます。(おそらくこんなことをした外科医は今までいなかったでしょう。)

C そして、何年も前に切断された神経が生きているかどうか。(つまり、神経吻合が可能かどうかという問題です)

D 最後に、長年、人工肛門(ストーマ)に慣れ親しんできた方にとって、その人工肛門よりも新肛門が上回るものであるかどうかという、新肛門の機能と満足度に関する問題。(これが最終的なアウトカムなのです)


@の問題に関しては、クリアーしました。いろいろな方法(発表準備中)をとることにより恒常的に可能です。

Aの問題についても、大変で困難ではありますが、乗り越えられない障壁ではありません。(ここ数年、他が嫌がる腹膜炎の再手術が必要な患者さんを積極的に受け入れてきたのは、実は、この手術を念頭においていたためでもありました。)

Bの問題もさして大きな問題ではありませんでした。慣れれば、再手術創でも、神経を見つけ出すことは可能でした。

Cの問題も、ついに解決しました。他病院で肛門を失い当院で肛門を再建した二人の患者さんの新括約筋に、先日の外来診察で収縮が見られ、神経の再生が確認されました。術後4ヶ月目と3ヶ月目でした。今後、実際に新肛門を使い、良い結果が出ることを祈るばかりです。(2007年5月03日現在で、その二人とも人工肛門がなくなり新肛門を使っています。新肛門の使い勝手がいいかどうかは、今後、末永く評価していくことになります。)

Dの問題の解答は、ですから、もう少し、時間がかかるところです。この問題はそもそもとてもナイーブな問題で、人工肛門と新肛門に対する考え方が、一人一人異なるものですから、永遠に一言ではいえないものであるかも知れません。

長年人工肛門をつけてきた患者さんたちは、直腸癌の手術から時間が経っている分だけ、癌の再発の可能性が少ないわけですし、術後の感染(もっとも防ぐべき合併症)が少なくなるわけですから、その意味では、より良い新肛門手術の適応ということが出来ます。

しかし、手術が1回余計に増えてしまうわけですから、出来れば、最初の直腸癌の手術のときから、新肛門の手術を計画して行ったほうが、ベターだと思います。

直腸癌の手術から年余が経過した方への新肛門の手術は、2005年4月から始めました。特に希望の強い方にのみ行ってきたのが実情です。最終的なアウトカムはでていませんので、その意味では、一種チャレンジ手術の意味合いがあります。もっとも、機能の再建手術は常にその宿命にあります。現在でも、それを承知で手術を受けていただいている段階と考えています。しかし、手術術式的にも、生理学的にも、この手術は可能でしたし、ある意味、完成された術式ではあります。後は、患者さんの満足度を満たすものであるかどうかという、最も困難で、最も大切な問題だけです。(これは、医療全般について言えることなのですが)

さて、
直腸癌で肛門を失い人工肛門になっている方は、いわば「医原的な肛門機能不全」であり、疾患と見なすことも出来るわけですから、当然、保険が適応されてしかるべきであると、私は考えています。
実際、既存の手術の組み合わせということで、保険を適応していますし、今まで問題になったことはありません。

これが、2015年1月6日現在の現状です。

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さいたま新開橋クリニック 
(埼玉県さいたま市西区宮前町408-1 電話 048-795-4760)  佐藤知行 
(お電話は随時受け付けております。外来診療や検査、手術のためにすぐに出られないこともありますが、遠慮なくお電話をおかけください。)


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目次
扉の言葉
第1章 直腸がんを治し人工肛門を避ける(大腸がんの説明)
第2章 人工肛門をなくす手術が開発されるまで
第3章 人工肛門をなくす手術の概略
第4章 人工肛門のない生活
第5章 文献紹介
第6章 自己紹介に代えて
第7章 すでに人工肛門を付けている方へ