新肛門手術について Bclinic guide

直腸がんや肛門がんでも人工肛門(ストーマ)にならない方法があります。

 第3章  
ストーマをなくす手術法(新肛門手術)の概略


新肛門手術には、直腸がん の手術と同時におこなう新肛門手術と、既にストーマをつけられている方(オストメイト)に対しておこなう新肛門手術との2種類の手術があります。ここでは、これから直腸がんの手術を受けられる方の手術を説明します。

直腸がんを切除する手術は従来の方法に準じて行います。直腸がん切除があらかた終わったところで、残った大腸の一部を使い、直腸のリザーバーとしての働き(便をためる働き)をさせるために、袋のような結腸パウチを作ります。

次に臀部の大殿筋の一部を使い、新しい括約筋を作ります。そのときに、本来の括約筋を支配していた陰部神経を大殿筋の神経につなぎ代え、陰部神経支配の新しい括約筋を作成します。この括約筋が、陰部神経の作用で自然な肛門の働きを代行します。

なお、この新肛門手術(新肛門再建術)は、保健医療が想定していなかった治療法ですので、現在、この手術そのものの手術代金は、保健点数表では決められておりません。そのため、従来ある手術法(直腸がんの手術と便失禁に対する手術)の代金として算定し、保健医療の範囲内で医療を行っています。

新肛門手術の説明

手術方法の概略を示します.以下の図は、私が書いた文献(7)と(8)からの引用です.(なお、ここに記した方法は、現在私がおこなっている発展的な方法とは異なり、クラシカルな方法と呼ばざるを得ませんが、基本原型ではあります.現在では、内括約筋の形成やそのほか細かな工夫が随所にこめられるようになりました。また、大殿筋以外に薄筋を使うこともあります。)

直腸癌に対する切除は、新肛門再建の有無にかかわらず、根治性を追及して、完全に同様に行います.切除術があらかた終了したところで、新肛門再建の準備を始めます.
図1のように、結腸の端が、緊張なく、肛門部まで引きおろせるように、十分に結腸を遊離します.また、直腸のリザーバー機能(便をためる働き)を再建するために、小型の結腸嚢(袋)を作成します.

図1
結腸を肛門部まで届かせるため、結腸を遊離する。

大殿筋といういわばお尻のほほの筋肉の一部を使用して新しく括約筋を作るのですが、まず、図2と図3をつかって、大殿筋の説明をします.(現在では、薄筋を使って、この陰部神経を縫合した新肛門を作成することも行っていますが、ここでは、大殿筋を使った術式を紹介いたします。)
図2に示すように、大殿筋は、その血管支配により、上殿動脈によって養われる上部と下殿動脈によて養われる下部とに分けられます.
(大殿筋はその全体が損なわれれば、歩行に障害が出ますが、上部を温存し下部しか使わないために、歩行障害は出現しません.)

ここからの図は腹臥位(腹ばい)になった時の臀部を示しています

図2
新肛門手術のための大殿筋の血管支配。

大殿筋の神経支配は、血管の支配の場合と異なり、全体が同じ下殿神経で支配されています(図3).

図3
新肛門手術のための大殿筋の神経支配。

ですから、大殿筋の下部を使って新しい括約筋を作る場合は、上部の機能を守るために、下殿神経の上部への枝を残す必要があります.

図4
新肛門手術。大殿筋下部を反転させたところ。


図5は、下殿神経の末梢側断端と陰部神経の中枢断端を縫合しているところを示しています.この神経縫合は、顕微鏡を使って行います.

図5
新肛門手術。陰部神経吻合を行なう。

殿部まで引き出してきた、結腸嚢の排出脚の周囲に、陰部神経を縫合した大殿筋下部で、新括約筋を作ります.(ここも実際にはいくつかの方法があり、いくつかのコツがあります。)

図6
新肛門手術。大殿筋で括約筋を作る。


図7は、側面から見たこの手術のイメージをあらわしたものです.
直腸のりザーバー機能(便をためる働き)のための結腸嚢と、肛門括約筋の機能をつかさどる陰部神経がつながれた新括約筋とによって、骨盤底が形成されています.

図7
新肛門手術のイメージ。

手術のイメージはつかめていただけたでしょうか.

なお、現在では大殿筋に代えて薄筋を使用して手術をすることも増えました。その方が手術後の患者さんの負担が少ないからです。

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連絡先:
この治療法は、1995年当時勤務していた自治医科大学附属病院で世界第1例が施行され、20例ほどの経験の後、転勤先の国際医療福祉大学病院で症例が重ねられました。
2008年1月からは、新肛門手術に特化して独立した、さいたま新開橋クリニック(大腸肛門ペルビックフロアーセンター)にて、手術を行っています。奇しくも、外科医Milesの記念すべき発表から100年を経ての、小さな抵抗であります。

さいたま新開橋クリニック (電話 048-795-4760)  佐藤知行  

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目次
扉の言葉
第1章 直腸がんを治し人工肛門を避ける(大腸がんの説明)
第2章 人工肛門をなくす手術が開発されるまで
第3章 人工肛門をなくす手術の概略
第4章 人工肛門のない生活
第5章 文献紹介
第6章 自己紹介に代えて
第7章 すでに人工肛門を付けている方へ