このページでは新しいポリープ切除術である、ブラッドパッチEMRを紹介します。
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さいたま新開橋クリニック (医療法人)
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新肛門手術について

 第10章 大腸ポリープに対する大腸内視鏡治療: 新しい安全な「ポリペクトミー法」

ブラッドパッチEMR (blood patch EMR)というポリペクトミーの方法

この章では、私が開発した、安全性を重視した新しい大腸ポリープ切除(ポリペクトミー)の方法を紹介します。(もちろん大腸ポリープだけでなく、胃ポリープ、十二指腸ポリープ、小腸ポリープ、直腸ポリープなどの他のポリープの治療にも応用可能です。また、直腸カルチノイドの治療にも応用可能です。)


大腸内視鏡検査 (かつて「大腸ファイバー検査」と呼ばれていた検査ですが、現在ではファイバーではなくCCDカメラを使用しているため、大腸内視鏡検査というのが正しい呼び名です。) で発見された大腸ポリープは、特殊な「輪になったワイヤー」を用いて、電気を流しながら、切除することが出来ます。これは、「ポリペクトミー(スネアポリペクトミー)」と呼ばれる方法です。
開腹手術をせずに、大腸内視鏡検査だけで、大腸ポリープを切除できるので、当時は画期的な方法でした。

しかし、このポリペクトミー(ポリープ切除)には欠点もありました。それは、通電をすると大腸の壁全体が焼けて穴が開いてしまう(消化管穿孔)ことがあることです。
また、キノコのように盛り上がった形の大腸ポリープは切除しやすいのですが、平坦な大腸ポリープには輪(スネア)をかけることができませんので、ポリペクトミー(ポリープ切除)ができないという決定的な欠点がありました。

そこで登場した方法が、EMR(内視鏡的粘膜切除術 endoscopic mucosal resection)と呼ばれるポリペクトミーの方法です。大腸粘膜を引き剥がすイメージから、ストリップバイオプシー(strip biopsy)と呼ばれたこともあります。
それは、大腸ポリープの下(粘膜下層)に生理食塩水を注入して粘膜を盛り上げる方法で、平坦なポリープをキノコのような形のポリープと同じようにして、ポリペクトミー(切除)する方法です。



しかし、この方法にも欠点がありました。

生理食塩水はすぐに吸収されて、程なく、生理食塩水による膨らみが消失し、平坦に戻ってしまうことです。(これはおおきな欠点です。内視鏡専門医でも内視鏡技術の未熟な方は、時間に追われて、あわててポリペクトミーをしなければならないので、とても危険です。)

さらに、粘膜下に注入する生理食塩水には、出血を予防する作用がありませんでした。最初からそんなことは考えられていませんでした。(これは安全性に対する大きな欠点でした。)
さらに、さらに、ポリペクトミー(ポリープ切除)された部分(つまり、粘膜が剥離された部分)には、何もなくなってしまって、壁が薄くなります。穿孔(大腸に孔があくこと)を予防する手段が何もとられていませんでした。(これも安全性に対する大きな欠点です。)

生理食塩水を用いた、一般的におこなわれるポリペクトミーには、これらの欠点がありながら、今までの内視鏡専門医の方々は、なぜ、新しい方法を考えなかったのか、わたしには不思議でなりません。

わたしは、その解決として、ブラッドパッチEMR (blood patch Endoscopic Mucosal Resection)という、新しい方法を考案し、開発しました。

それは、きわめて簡単な方法で、コロンブスの卵のような方法です。

生理食塩水の代わりに、患者さん自身の血液を、粘膜下層に注入し、それ以外は、従来どおりに、ポリペクトミー(ポリープ切除)をする方法です。

すると、粘膜下に打ちこめられた血液がちょうどいい具合に血糊となって、出血を防止しますし、粘膜が切除されて薄くなった大腸壁を、血液がパッチして、守ってくれるのです。だから、ブラッド(血液)パッチEMRと名づけました。

図で説明しましょう。

大腸内視鏡検査で平坦な形の大腸ポリープが発見され、内視鏡的に切除する方が良いと判断されたとします。これが図1です。ピンク色の1番上の層が粘膜層で少し皿のように出張っているのが平坦型腫瘍と呼ばれるものです。平坦型腫瘍はキノコのように飛び出たポリープではないので簡単には取れません。
平坦な大腸ポリープ図1(大腸壁の断面図)

そこで病変の下に普通は生理食塩水を注入して盛り上げるのですが、これを、生理食塩水に代えて、患者さん自身の血液で行なうのです。これが図2です。血液は固まる性質があるので、盛り上がった形状は長い時間そのままです。あわてなくても次の仕事ができるというわけです。
自己血液を粘膜下に注入(ブラッドパッチEMRという大腸ポリープの内視鏡的切除方法)図2(平坦型腫瘍の下に血液を注入)

次の仕事とは、盛り上がった病変部分を、輪になたワイヤーであるスネアによって、電気凝固しながら、切除することです。これが図3です。
自己血液の粘膜下注入で隆起した大腸粘膜をポリペクトミー図3(スネアにて電気凝固しながら切除)

めでたく切除されたわけですが、切除されて欠損した粘膜の部分には血糊が固まった状態で着いていて、出血を防止しその部位を守ってくれているというわけです。このイメージが図4です。
ブラッドパッチEMRの完了図4(ブラッドパッチEMRの完成)


血液はからだに害がありません。内出血しているのと同じですから。生理食塩水に薬を混ぜて、出血を防止するような方法とは大いに異なるところです。
また、長い時間、粘膜の盛り上がりを保ちますので、手技的にも時間に追われてあわてなくてすみます。
そして、自分の血液は、安い。つまり、ただです。患者さんにとっても、医療費問題を抱える国家にとっても、ありがたいことです。おそらく、国家レベルでいえば億円単位以上の節約になるのではないでしょうか。世界レベルでいえば、さらに大金の節約になるはずです。

出血防止、大腸壁保護、無害、盛り上がりの長時間化、安い、、、まさに、1石5鳥の ブラッド パッチ EMRです。

参考文献と学会発表の記録
1)佐藤知行. Blood patch EMR の 早期結果報告.第59回日本大腸肛門病学会総会 2004年11月5日 久留米市 (日本大腸肛門病学会誌 2004年 第57巻9月号 586ページ)
2) 佐藤知行 他.blood patch EMRの安全性と有用性に関するprospectieな検討.第69回日本消化器内視鏡学会総会 2005年5月26日 東京 (日本消化器内視鏡学会雑誌 Gastroenterological Endoscopy 2005年 vol.47(supplement 1)753ページ)
3)
佐藤知行 . ブラッドパッチEMR(blood patch EMR)に吸引法を応用した“ブラッドプリンEMR(blood pudding EMR) 60回日本大腸肛門病学会総会,東京,20051028日.(日本大腸肛門病学会雑誌58(9)5832005)
4)
Sato T. A novel technique of endoscopic mucosal resection assisted by submucosal injection of autologous blood (blood patch EMR). 2006 Dis Colon Rectum (epublish before paper)
 (解説)ブラッドパッチEMRのテクニックとその臨床治療成績を世界に先駆けて紹介した論文。米国大腸病学会誌掲載。

しかし、注意があります

このブラッドパッチEMRは、すぐれた方法です(と、私は思っています。)が、無闇に、あなたの病院の内視鏡専門医に、「このブラッドパッチEMRの方法で、大腸ポリープをとってほしい、ポリペクトミーをしてほしい。」と頼まないでください。なぜならば、どのようなすぐれた方法でも、慣れていない場合には、かえって失敗を起こす可能性が高く、危険なのです。
新しい手技を導入するには、それなりの準備と実力が必要ですから。


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これらの仕事は国際医療福祉大学病院、内視鏡室にて行われました。

現在の連絡先は、さいたま新開橋クリニック         佐藤知行
               電話 048-795-4760~4762
E-Mail:  sinkoumon@jspecialjapan.com
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   余談: 私は、blood patch EMRというポリペクトミーの方法を、2004年から日常臨床で行い、また、日本国内の学界で2004年から繰り返し発表してきたわけですが、私の上の英文論文は、掲載されるまで論文審査に事務的な時間がかかり、2006年の10月号に米国より出版されました。当時は、まったく世界中どこにも影も形もアイデアさえもなかったこのblood batch EMR法でしたが、2006年にドイツのチームがこのblood patch EMRの方法を豚の切除標本で動物実験し学会発表され、有効性を証明しました。正式な論文はまだのようです。また、同年12月、アメリカのチームが、生きた豚で動物実験し、他の方法よりも有効であることを証明してくれました。俄然、世界的に注目されてきたテクニックというわけです。今後が楽しみです。
   しかし、このことは、日本人が英語で発表する際、どうしても論文掲載まで、時間がかかりますから、ぼやぼやしていると、いわゆるpriorityを奪われてしまいかねないことにもなるといういい例でもあります。なぜ、同じようなアイデアが同時に、というか、追いかけて、出てくるのだろうと不思議です。
私の場合は、一足だけ早く論文掲載され、priority競争にも勝って、ほっと一息ついたわけですが、このような経験は私自身でもこれで2度目。



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